”オレたちのRe:Walk”第4回
2017年4月9日
伊藤弥生(イトウヤヨイ/受傷部位:脊髄損傷Th12、完全麻痺)
紹介文:Re:Walk Project 木戸より
やよいさんとは、僕のブログを通じて知り合い、昨年、奈良に足を運んで実際にお会いしました。
やよいさんと初めてお会いした時の印象は、
「リハビリに対するアプローチが全く同じ!」でした。
受傷時期もほとんど同じ、受賞部位も同じ、そして完全麻痺も同じ。
そこから、何とか0から1を目指し、1を2→3と積み上げていこうとする。
そのアプローチに共感し、時間が経つのも忘れて話していました。
しかし、
体の反応は僕とは異なる部分が多々あります。
僕は体前面の腸腰筋を中心に使い歩いていますが、やよいさんはほとんど腸腰筋は使えません。
でも、歩行訓練を繰り返す中で、短下肢装具(長下肢装具ではないんですよ)でも膝をロック
しながら歩くことができるんです。信じられませんでしたが、今回のコラムで、歩行映像も紹介していただいています。
こうして、全国各地で歩こうとしている人が他にもいる。
だから、自分も目の前のリハビリを頑張れる。
皆さんも、一緒に進んでいきましょう。
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はじめまして、伊藤弥生です。
私は動くことが大好きで、小さい頃から野山を駆けめぐり、バイクや空手などの趣味を経て、20代でパラグライダーに出会いました。
青空に舞う色とりどりの翼に魅せられて、仕事が休みの度に和歌山に足を運び、風と共に空を自由に飛びまわりました。
競技にも目覚め、国内はおろか海外にも参戦し、たとえようもない美しい景色の記憶と沢山の得難い経験が積み重なっていきました。
ただただ空が好きで、風を掴まえることが生きることの一部でした。
2015年5月23日、国内リーグの新潟での試合で、ライディング直前に5Mの高さから墜落。胸椎12番圧迫骨折。下半身完全麻痺。
あんなに自由だったのに、不自由になってしまった。
怪我をした日からもうすぐ2年。私も諦めることができなくて、あがいてきました。
日常生活を取り戻し、元気にもなりました。
でも未だ、私の下半身は目に見える確実な変化はありません。
毎朝起きる度に動かない下半身に絶望するし、脊髄損傷特有のしびれ痛みに打ち負かされることも良くあります。
常に前向きではいられませんし、モチベーションの維持にも苦労しています。
心も体もぐにゃぐにゃのまま。
だから、もしこれを読んでくださる方が歩くリハビリに迷いを持っているなら、それは私も同じです。
迷いながらも諦められない。そんな思いを共有しながら、私の経験と考えが少しでもお役にたてればとおもいます。
入院中はやはり、歩くリハビリではなく車イスでの生活の為のリハビリでした。
こんなリハビリがやりたい訳じゃない!ずっとそう思っていました。
そんな私に友人が「車イスに乗って歩く方法を探しに行けばいい。寝ているよりは可能性が上がるはず」 と言ってくれました。
退院してから、歩く為のリハビリをするには情報が少な過ぎました。
でも、できることを全部するしかない。
お金をあまりかけずに毎日続ける為に、私の選んだ答えは在宅リハビリでした。
北海道の小樽に、家族で行うリハビリを教えてくれる人がいるとのことで、退院後すぐに母と向かいました。
そこで装具を使わず、人に膝を押さえてもらって歩行器を使い、歩く訓練を受けました。
といっても、腰を振りだして足を前に投げ出しているだけで、それも毎回6歩くらいの。
それでも、その時はそれ以外なかったんです。
この頃は引きこもりで、痺れ痛みの為に寝たきりでいることが多く、週に2、3日、頑張れた日だけ。
でも少しずつ少しずつ歩数を増やしていきました。
VIDEO
裸足で訓練していたんですが、滑りを良くする為に足裏にベビーパウダーを付けたり、狭い自宅の廊下を少しでも長く使ったり。
出来るだけ自然な歩き方を常にイメージして何が違うのかを考えてトレーニングしました。
歩行器に布を貼って立位台にしたり、足踏みやスクワットまがいのことをしてみたり。
慣れてきたら歩行器の種類を変えました。低いものにした為、より腰回りの安定が必要になりました。
このころ、足首の不安から短下肢装具を装着して使っていたのですが、体重を真っ直ぐ下にかければ膝を押さえなくても立てることに気付きました。
そこで、視覚的に常に介助が入るよりも、膝の押さえなく歩けると脳に勘
違いをさせるために歩行にも取り入れました。
VIDEO
私の足は完全に弛緩しています。
ただ、短下肢の踵から脛への固定が真上から荷重をかけることで膝折れを防いでいるのではないかと考えています。
それだけで説明がつくのか分かりませんが、工夫と反復を繰り返すことで歩様は確実に変化していると思います。
回転していた足は真っ直ぐ爪先から運べるようになり、持ち上がる高さも高くなりました。股関節の前後の動きも安定感が増しています。
現段階は、股関節の左右の安定と、膝からの持ち上げに取り組んでいます。
脊髄損傷の歩く為のリハビリはマニュアルもなく確立されていませんが、物事を成し遂げる為にすべきことは変わらないと思います。
思索して実行し、その結果を分析して修正し、また実行する。良いものは継続し、変化にあわせてステップアップする。
可能な範囲から一歩先出た挑戦をする。
短期、中期、長期目標を立てて取り組む。
そして、諦めない。
でも脊髄損傷のリハビリで一番つらい点は一人でやりにくいという点ですよね。
家族やヘルパーに手伝ってもらっても、何時間も拘束はできない。何より常に人の手を借りることが精神的につらい。
だから一人でできるリハビリも探しました。
それなりにお金はかかるけど反復して使うことで元をとるつもりで機械を考えました。
この時は大分に出掛けて実際にいくつか機械を使わせて頂いて購入を決めました。
それがパワープレートとスタンディングフレームです。
パワープレートで感覚に刺激を与え、腹筋や背筋、四つ這いなどで境界部分の筋力アップ、足首や股関節のストレッチ、立位での骨密度低下予防などを行います。
スタンディングフレームでは純粋に立位時間を増やすことを目的にしています。テレビを見ながらハンドフリーで作業もできます。
他には床で横になった状態で腿上げ。これも滑る床で摩擦を減らし、股関節の曲がる特性を利用して微力で足を動かしています。
外旋や内旋も最近出来るようになってきました。
VIDEO
あとは外転内転の訓練に足を吊るしてできるように考えている最中です。
病院にもアプローチを続けています。私が回復期に選んだ病院にはHALがありました。
ですが、完全麻痺は適応外で試すことすらできませんでした。
それでも諦めきれず、歩行リハビリの動画などを見せ続けて、1年後にHALを使った1ヶ月のリハビリ入院をさせてもらえることになりました。
HALも少しずつ進化をしていて、今は完全オートマティックモードがあり、それを使い歩行リハビリをしました。
でも、従来のアシストモードでも、やはりHALは少し反応するんです。
完全に神経が断裂してる以外は完全損傷なんてありえない。
私はそう思っています。
しかし、1ヶ月のリハビリではたいした変化は得られませんでした。
もう少し長いスパンで試してみたい。
今度は外来リハビリで引き続き使えるように交渉しています。
また体の手入れと管理、把握も必要だと思います。
ストレッチでの可動域の維持や、怪我の防止も立派なリハビリです。
私は自己流でのリハビリなので感覚のない部分の負担が心配で、半年に1度ほど、股関節、膝関節のレントゲンを撮ってもらっています。
また1年に1度骨密度もチェックしてもらって減少を意識しながら、歩行リハビリや立位をして少しでも維持しようとしています。
ビタミンDを摂取したり、日光に当たるようにもしています。
また筋収縮の変化は自分では判断しにくいので、PTさんやトレー ナーさんに触ってもらって客観的に評価してもらっています。
今、私たちは再生医療という希望がある時代にいます。
沢山の方たちが私達の体を治すために頑張ってくれています。
だからこそ、ただ待つだけではなく、準備をして少しでも迎えに行きたいと思うんです。
ただ私はリハビリだけに打ち込むのに躊躇しました。
変化の少ないリハビリを続けるのは容易ではなく、日常生活との折り合いに迷いました。
1日8時間くらいリハビリしている人がいる。自分のリハビリは足りていないんだろうか、だから動かないんだろうか。
リハビリを、歩くことを諦めたら楽になるのに。もっと楽しいことに時間を使えるようになるのに。他に生き甲斐を見つけることが正しいんじゃないのか。
今も迷うことがあります。
私はもう一度空を飛びたいけれども、その気持ちはいつも怪我をする前に戻りたいという気持ちとリンクしていました。
ただ純粋に飛びたいんじゃなくて、怪我をする前の状態に戻りたい。過去にしがみついている気がする。
だから新しく自分を築く何かを必要としていました。それは私にはスポーツだったんです。
車イススポーツなんて、正直興味がなかった。やりたくなかった。
でも体を動かした瞬間に「うわあ!」って思いました。うわあ、やっぱり私は純粋に体を動かすことが好きだって。
リハビリ以外にも打ち込むものが必要でした。リハビリを続けていくために必要でした。
始めた当初は、打ち込む自分の容量が10あるとして、それをリハビリに5、スポーツに5分けて結局どちらも中途半端なんじゃないかとも思いました。
でも違うんですね。
スポーツをすることは、やっぱり上半身と連動して、動き出している下半身も使っています。それこそ2時間も3時間も夢中になって。
そして、車イススポーツをするのに下半身の変化はパフォーマンスに物凄く影響します。
だから歩くリハビリはスポーツのトレーニングにもなる。
つまり5と5に分けるんじゃなくて、相互に作用して10と10になるんだと思います。
スポーツでなくなって、仕事であったり、子育てであったり、リハビリだけに時間を使えていないことに不安を感じることもあると思います。
でも大切なことは、リハビリを続けること。その時そのタイミングで必要にあわせて変化をしな がら、諦めずに続けること。
今は午前中に仕事、昼からリハビリ、夜は家事やスポーツという生活をしています。
1年前は家に引きこもって、1日の大半はベッドの上でした。何よりも痺れ痛みで動くのが嫌でした。
どうやって変わっていったのか。
今思い返してみても、物凄い意志の力で出来ないことにチャレンジした訳じゃないんですね。
出来ないことじゃなくて、出来るのにやらなかったことを、ほんの少し頑張ることで道が拓けていった気がします。
それはリハビリブログの方にメールをしてみたり、本当にそんな些細なことでした。
冒頭にも書きましたが、今も私はよく弱ります。痺れ痛みで動きたくなくなります。意志もぶれるし、自分を信じられなくもなります。
そんな時はベッドの中でやり過ごします。
全てを失った日から比べて今はどれだけものを手にいれたか、どれ程の物が残されていたか、1年前に比べてどれくらい変わっているか。
まだまだ諦めたくない、やっぱり歩きたい。
そう思えたら、また起き上がって頑張ります。
脊髄損傷の方とそのご家族の方たちへ。
もう一度歩くということは、過去を取り戻すのではなく新しく作っていくということではないでしょうか。
修復ではなく、再構築。
神経も未来も人生も。
自分が一番願うことを、諦める必要なんてない。
私は必ずもう一度歩いて、自分の足で大地を蹴って空を飛びます。
必ず!
Day by day, in everyway I’m getting better and better!
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