”オレたちのRe:Walk”第2回
2017年2月28日
三浦 祐輔(ミウラ ユウスケ)
2016年オーストラリアでのリハビリ留学中に出会った理学療法士
紹介文:Re:Walk Project 木戸より
ユウスケ(三浦夫妻)とは、オーストラリアでのリハビリ留学中に、
奥さんの有希さんにトラムで声をかけられのがキッカケで知り合うことができました。
「キドリハの木戸さんですか?」その声かけに、
「とうとう、キドリハもくるとこまできたか!笑」なーんて調子に乗ったのも良い思い出です。笑
その後、半年間の生活の中で、ユウスケとは多くの時間を過ごしました。
・日本とオーストラリアの理学療法士(PT)さんのステータスの違い、
・日本とオーストラリアのリハビリの違い、
・自分の夢に向かって目標を再設定すること、
年も同じで、多くの共感ポイントがあり、一緒にいて多くの刺激をもらいました。
そのユウスケの考えを掲示板で紹介してほしい。そう思っていました。
なので、PTさんの一人目はユウスケにお願いすると決めていました。
そして、「リハビリに対する想いや考え方について書いてほしい」と、ストレートにオーダーしました。
ユウスケの専門は脳卒中ですが、リハビリの意義は、脳卒中も脊髄損傷にも共通点はあると僕は思います。
実際、リハビリ病院で出会った方で、脳卒中で麻痺が残りリハビリを続けている方からも、僕は多くの刺激をもらっています。
僕が発信するテーマはいつもメンタル面のことが多いのですが、
今回の記事では、リハビリ内容についてPTらしくとてもロジカルで分かりやすく整理してくれたので、
個人的にもとても勉強になりました。それでは、ご覧ください。
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『継続することの意味』
~ 今できること!今しなきゃいけないこと! ~
始めまして、三浦祐輔と申します。
私は日本で理学療法士の免許を取得し、東京の病院で8年間勤務していました。
昨年は一年間オーストラリアに行き、語学留学とオーストラリアのリハビリの現状を勉強するために、ワーキングホリデービザを使い、オーストラリアで生活していました。
日本の理学療法士は、
『医師の指示の元…』と定められており、基本的には医師が従事しているところでなければ、理学療法を行ってはいけません。
しかし、
オーストラリアでは理学療法士が開業権を持っており、街中には理学療法士のクリニックが多くあります。
その為、患者は医師を返さず、直接理学療法、リハビリを受けることが出来ます。
ただここには教育制度に大きな違いがあり、オーストラリアでは医師と同じくらい知識を身に着ける必要があります。
そこが日本の理学療法士との大きな違いと考えます。
私はオーストラリアの教育制度を、日本にも輸入し、いずれは日本の理学療法士も開業できるような制度、仕組みができればと考えています。
そして、患者さんが受けたい時に受けられるようなリハビリ環境に出来ればと考えています。
そんなオーストラリアで生活している時に、木戸さんと出会いました。
そして、今回このような機会を頂きました。
今回は、私が理学療法士として勤めている中で、培った知識や大切に思っていること、リハビリテーションを継続する意味をお伝え出来ればと思っています。
昨今、医療技術は進化し、ロボットの導入、再生医療と次々と新しい医療が導入されています。
私は特に再生医療は素晴らしいと考えています。
対処的な医療ではなく、根本的な治療になると思っているからです。
例えば、脳卒中を発症すると、脳の神経細胞が機能しなくなります。
機能しなくなってしまった脳神経を再生医療で回復させることができれば、素晴らしいことであり、根本的な治療になると思います。
しかし、再生医療は研究段階であり、まだまだ一般的な治療として受けることができないことが現状です。
将来的に再生医療が発展し、一般的に受けられるようになる、
その時までに、『今できること!今しなきゃいけないこと!』
理学療法士という立場で、私の意見をお伝えできればと思っております。
それは、『身体をより良い状態に維持する(運動の観点から)』ことが大切です。
もし再生医療が一般的に受けられるようになっても、
寝たきりの生活を何年も続けてしまった、運動はほとんどしていなかったなど、
身体の状態が悪ければ、いくら再生医療で機能が回復しても、
またそこでリハビリが必要になってきます。
しかも、多くの時間をリハビリに当てる必要があります。
そのようにならない様、今継続してリハビリをする必要があると、私は考えます。
今回は身体をより良い状態に維持する為の必要な3つの要素を、
私の意見をお伝えできればと思います。
その要素は3つ
1)関節可動域の維持
2)筋力の維持
3)神経ネットワークの維持
一つ一つ説明していきたいと思います。
1)関節可動域について
皆さん身体が硬くて困ったという経験はありませんか?
上記写真は尖足といって、写真のような状態で足関節が硬くなっています。
この状況では立つことすら出来ません。
私は、身体は柔らかければ柔らかいほど良いと考えています。
しかし…、
柔らかくしようとストレッチをしても、なかなか柔らかくならず、
そのうちに、ストレッチを止め、数ヶ月後以前より硬くなっているという経験ありませんか?
私はあります。
身体は柔らかくするのは難しく、硬くなるのは簡単です。
(図1)
上記はラットの実験による関節可動域制限の進行状況をグラフ化したものです(図1)。
ラットの足関節をギプスで固定し、不動化させ、関節の可動域の変化を調査したものです。
1~2週間で関節の可動域が狭まっていることがわかります。
(図2)
上記は関節可動域の回復状況を示した図で、不動期間が40日以上では関節の可動域に制限をきたします。
硬くなるのは早く、不動期間が長くなるほど回復に掛る時間は長くなり、最悪可動域制限という障害を残してしまいます。
硬くなる原因としては、
①皮膚性、②結合組織性、③筋性、④神経性、⑤関節性と様々です。
その中でもやはり筋による影響が大きいと研究結果から得られています。
筋肉は不動期間1週間で筋の長さが11%も短くなると言われています。
先ほどもお伝えしたように、硬くなると、元に戻すのが大変です。
そのため、硬くならないように維持していくことが大切です。
(図3)
上記は一日20分~30分行うことで、関節が硬くなることを抑制できるという研究結果です(図3)。
継続することは大変ですが、硬くならないように日々行うことがすごく大切です。
2)筋肉について
これも関節可動域の時にお伝えしたように、
筋肉をつけるのは大変で、筋肉が細くなるのは簡単です。
筋肉は1週間の臥床により10~15%の筋力低下が起きると言われています。
また約3ケ月の固定により筋体積は健常肢に比べて12%減少し、筋線維の直径は42%減少したとの研究結果もあります。
筋力を維持するためには、最大筋力の20~30%の負荷を掛けることが必要であり、
20%以下の負荷では筋力は低下すると言われています。
逆に、筋力を増強するためには、30%以上の負荷が必要と言われており、
特に筋肉を大きく、太くするためには、
最大筋力の60%~80%の負荷を10回行うが必要と言われています
(図4)
筋肉をつける為には、かなりのトレーニングが必要です。(図4)
だからといって、ウエイトトレーニングをしてくださいという訳ではありません。
これも筋肉量を維持することを行ってほしいと考えます。
これは日常、当たり前に行う動作で良いと考えています。
椅子から立ち上がる、立った姿勢を保つ、歩くなどなど…。
少しの運動、少しの負荷で筋肉は維持で出来ます。
これも関節可動域の項目でお伝えしたように、継続することが必要です。
私は片麻痺の方を病院で診させて頂きましたが、麻痺している側の筋肉は細くなりやすいと感じています。
なので、
麻痺している側にもしっかりと体重を掛けながら立ち上がる、立っている姿勢も均等に体重を掛ける、このようなことを意識して行うことが重要と考えます。
3)神経系について
神経系はとても繊細だと考えています。
(図5)
上記研究は、サルの第3、4指を縫合し、1ヶ月後の感覚領域の変化を示した研究です。
1ヶ月後には第3指と第4指との境界がなくなったという研究結果です(図5)。
(図6)
上記は、サルに第2、3、4指を使わせるような訓練を行わせると感覚領域が拡大したという研究です。
このように神経系は良くも、悪くも変化しやすいという性質があると思います。
その為、訓練によって、神経ネットワークは活発に働き、ネットワークを強くしています。
これは、脳卒中のリハビリにおいて重要な研究結果であり、
麻痺した側のリハビリを行うことで、神経ネットワークを築くことができます。
なので、私は積極的に訓練し、継続していくことが重要と考えます。
おわりに
最低でもこの3つの要素、
1)関節可動域、2)筋力、3)神経ネットワークどの組織においても、維持していくことが重要と私は考えています。
これは、今後再生医療が確立し、障害が回復しても、すでに関節が硬い、動かない、
筋肉がやせ細っていて身体を支えることが出来ないという状態ではすぐに身体は動きません。
その為、
身体をより良い状態に維持することは重要であり、継続的な努力が必要です。
リハビリテーションを継続する意味があると考えています。
これは障害を持った方だけでなく、健常の方にも言えることだと考えます。
これは予防にも繋がります。
継続することは大変です。
しかし、今私達がしなければならない事は、
身体をより良い状態に維持すること、継続した運動、リハビリをすることだと私は思います。
参考文献
1)森岡 周:リハビリテーションのための脳・神経科学入門
2)沖田 実:関節可動域制限-病態の理解と治療の考え方
3)奈良 勲:運動療法学 総論(標準理学療法
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